腎機能
尿素窒素およびクレアチニンがパニック値となる原因で最も多いのは腎機能障害である。腎機能障害の発症が急性なのか慢性なのかで対応が変わってくる。そのため、前回値との比較や患者背景を把握することが重要である。
腫瘍崩壊症候群に伴う高尿酸血症は急性腎障害を引き起こすため、早急な対応が必要である。
尿素窒素
尿素は蛋白質の異化産物として肝臓で産生される。尿素の測定は尿素に含まれる窒素分を定量し、尿素窒素(urea nitrogen:UN)で表示する。
尿素は腎臓から排泄されるため、UNが高値を示すときは腎機能が低下している可能性がある。ただし、UNは体内水分量、蛋白摂取量、蛋白質の異化の程度など腎機能以外の要因にも影響を受ける。
クレアチニン
筋内にはクレアチニンとそのエネルギー貯蔵分子であるクレアチンリン酸が大量に含まれている。クレアチニン(creatinine:Cr)はクレアチン、クレアチンリン酸が分解された物質(老廃物)である。
Crは通常、糸球体で濾過され尿中に排出されるが、糸球体の濾過機能が低下している場合は排泄されず、血中に残る。このため血清Cr値は腎機能の代表的な指標になる。ただし、Cr値は筋肉量や性別、年齢に左右されることや、腎機能が60%以下に低下するまでCr値は上昇しないという問題点がある。
UN/Cr比
Crは腎臓以外の影響を受けにくいのに対し、UNは腎臓以外の影響を多く受ける。通常UNとCrの比は10~20前後を示す。UN/Cr比が上昇もしくは低下している場合は腎外性因子の関与が考えられる。
急性腎障害の鑑別ではUN/Cr比が指標となり、脱水などが背景にある腎前性腎障害ではUN/Cr比は20以上、腎性腎障害では10~20になる。
尿酸
尿酸(uric acid:UA)はエネルギー物質(ATP、GTP)や拡散(DNA、RNA)の原料であるプリン体の最終代謝産物である。その大部分は尿中に、一部は腸管に排泄される。尿酸は血中の飽和溶解度を超えると組織に沈着して痛風発作や尿路結石となる。
高尿酸血症は臨床現場で遭遇する機会が多い疾患である。その多くは原発性で、明確な原因は認められないことが多い。
高尿酸血症はこれまで尿酸産生過剰型、尿酸排泄低下型、両者の混在型に大別されてきた。近年、腸管からの排泄減少による高尿酸血症の存在が明らかとなり、腎外排泄低下型が新たに追加された。
頻度は、尿酸排泄低下型が約60%、混合型が約30%、尿酸産生過剰型が約10%で、腎外排泄型は腎臓からの尿酸の排泄が見かけ上過剰となるため、尿酸産生過剰型に含まれる。(真の尿酸産生過剰型と腎外排泄型を合わせて腎負荷型という呼称が提唱されている)
パニック値への対応
尿素窒素
UNが異常高値のときは、腎性か腎外性か、両者の要素があるのか鑑別する。Crなど他の腎機能の指標も確認し、腎機能障害の有無を評価する。UNとCrが乖離する場合は、腎外性因子が関与する可能性がある。
UNのパニック値の原因として最も多いのは腎性である。腎性の場合、UNは80~90mg/dLを超えるが、消化管出血などの腎外性因子のみでは50mg/dLを超えることはまれである。
クレアチニン
Crがパニック値となる主な原因は腎機能障害である。パニック値の報告を受けたら、UNや電解質、特にカリウムをチェックする。カリウムは腎機能障害で高値になり、緊急な対応が必要である。
腎機能障害は臨床経過で急性と慢性に分けられ、Cr値が同じでもそれぞれで対応が変わってくる。急性の場合は、速やかな原因検索と治療が必要で、場合によっては血液透析を検討する必要がある。一方、急激な増悪を伴わない慢性腎臓病では、特別な治療を要しないことが多い。
尿酸
尿酸のパニック値で緊急な対応が必要となるのは、腫瘍崩壊症候群や横紋筋融解症における高尿酸血症である。細胞の崩壊により尿酸が大量に放出され、腎尿細管に沈着して急性腎障害を引き起こす。そのため迅速かつ適切に輸液やラスブリカーゼなどの薬物治療が必要となる。
関連検査
腎機能のより正確な評価には糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)を用いる。
GFRを測定するためには、クリアランス検査が必要である。イヌリンやCrが単位時間あたりに血漿から尿へ除去される割合を測定し、濾過機能を評価するものである。
イヌリンを使用したクリアランス検査はGFR測定のゴールドスタンダードであるが、測定が煩雑であることから日常診療で検査されることは少なくなっている。
その代わり、Crを使用したクリアランス検査やそれを推算するCockcroft-Gault式、またGFRを推算するeGFRがよく用いられる。それぞれに特徴があり、個々の患者さんに合った使い分けが必要。
クレアチニンクリアランス(実測値Ccr)
Crは、糸球体で濾過され尿細管では再吸収されない内因性物質のため、GFRの測定に用いられる。しかし、Crは尿細管からわずかに分泌されるためGFRを過大評価し、イヌリンクリアランスに比べて正確なGFRを反映しない。そのため、実測Ccrを0.715倍する換算式が知られている。
- 実測Ccr(mL/分)=尿中Cr(mg/dL) × 尿量(mL/日) / 血清Cr(mg/dL)
- GFR(mL/分)=0.715 × Ccr(mL/分)
測定には蓄尿検査が必要であり、蓄尿できない患者や外来患者では利用できない。この場合、次のCockcroft-Gault式やeGFRが代用される。
Cockcroft-Gault式(推算Ccr)
年齢、体重、血清Cr値、性別からCcrを推算する式。薬剤投与設計時に汎用されている。
- 推算Ccr(mL/min)=(140-年齢)×体重 / (Cr×72) (女性は×0.85)
筋肉量の少ないるいそう患者や筋肉量低下をきたす病態では、推算Ccrは腎機能を過大評価する傾向にあるが、次に示すeGFRcreatよりも程度は小さく、正確性は高いといわれている。
肥満患者では過大評価となるため理想体重を用いる。
クレアチニンを用いた推算糸球体濾過量(eGFRcreat)
血清Cr値、年齢、性別によって簡易にGFRを推定でき、Crのみでの腎機能評価よりも精度が高いことから、慢性腎臓病のステージ分類に使用されている。
- 日本人のGFR推算式(18歳以上に適用)
- 男性:sGFR(mL/分/1.73m2)=194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287
- 女性:sGFR(mL/分/1.73m2)=194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287 × 0.739
やせた高齢者では筋肉量が少ないためeGFRが高く推算される。この場合Ccrや次に示すeGFRcysを用いる。また急性腎障害など腎機能が急激に変化している場合、推算式の正確性は高くなく、実測CcrによるGFRの評価が望ましい。
シスタチンCを用いた推算糸球体濾過量(eGFRcys)
シスタチンC(CysC)は糸球体で濾過され、近位尿細管で再吸収・分解される。血中には戻らないため、CysCの血中濃度はGFRに依存する。
Crと違い、筋肉量、年齢、性別、食事や運動の影響を受けにくい。また、Crと比較し、腎機能低下のより早期からCysC値は上昇する。しかし、腎機能低下に伴い、CysC値は頭打ちとなるため、Cr値3mg/dL以上では、CysCを使用しないほうがよい。また、保険上血清CysC値の測定は3か月に1回が限度である。
レジデントのためのこれだけ検査値を主に参考にして勉強して作成しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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