肝細胞癌 hepatocellular carcinoma: HCC
原発性肝癌取扱い規約肉眼分類で、結節型、塊状型、びまん型に分けられる。
結節型肝細胞癌 nodular type
癌部と非癌部の境界が明瞭なものをいい、さらに4つの亜型(単結節型、単結節周囲増殖型、他結節癒合型、他結節型)に分けられる。また肝5区域(外側区域、内側区域、前区域、後区域、尾状葉)の1~2区域を占める巨大な腫瘤であっても、周囲肝組織との境界が明瞭であるものは結節型である。
通常、腫瘍を取り囲む線維性の被膜が存在し、腫瘍は膨張性に発育する。また、腫瘍内に線維性の隔壁が存在し、これにより小結節にさらに区分される。
肝細胞癌の典型的超音波像は径3㎝以上の結節型で特徴的であり、低エコーの隔壁に境されたエコーレベルの異なる小結節がmosaic patternとして認められ、線維性被膜haloとして存在する。
塊状型肝細胞癌 massive type
線維性被膜がなく、癌部と非癌部の境界が不明瞭かつ不規則であるものをいう。しばしば転移性の小結節も伴い、肝区域あるいはそれ以上の肝区域の大部分を占める。腫瘍の超音波像に特徴的な所見はなく、門脈腫瘍血栓が高率に存在することが診断の決め手になる。また、肝静脈、肝内胆管への腫瘍進展も10%前後に認められることがある。肝内胆管への腫瘍の進展により、胆管拡張がある場合は、胆管癌との鑑別が必要になる。
びまん型肝細胞癌 diffuse type
肝臓全体が結合織で取り囲まれた無数の小さな腫瘍結節に置換された形態を示し、浸潤性の発育のため非癌部との境界は不明瞭である。肝硬変の粗い肝実質像との鑑別は難しい。門脈内腫瘤塞栓の存在により、逆に肝細胞癌の存在が疑われることも多い。ただし、門脈内腫瘍塞栓は胃癌、大腸癌などの肝転移でも認められることがある。経門脈性に肝転移を来すからである。
- エコー所見
- 辺縁(周辺)環状低エコー帯(halo)
- モザイクパターン、隔壁エコー(septum echo)
- 後方エコー増強
- 外側陰影
- 小細胞癌では、低エコーを示すことが多い
- 腫瘍栓(主に門脈)、びまん型・塊状型に多い
- Hump sign(肝表面)
- Bright loop(辺縁部が高エコー)
- エコー所見(カラードプラ)
- 2㎝以下の場合、血流は少ないが、時に腫瘍内部および周辺に線状もしくは点状の血流信号
- 2㎝以上の場合、血流は多く、バスケットパターン(周辺から中心に向かう)が認められる
- 門脈内に拍動流を認める場合、腫瘍塞栓やA-P shuntの存在を疑う
- 腫瘍内では線状、分枝、屈曲蛇行、口径不整などの血流信号が認められる
- 血流信号は、拍動性・定常性双方が認められるが、大きさや分化度により異なる
転移性肝癌 metastatic liver cancer
腫瘤のエコーレベルは、高エコー、低エコー、混合エコーとさまざまである。腫瘤径が1㎝以下では低エコーのものも多く見られるが、中心部の変性が容易に起こるため、5mm程度の大きさでも腫瘤中心部が高エコーを示すbull’s eye patternあるいはsign(target pattern)を認めることがあり、鑑別診断に役立つ。
bull’s eye patternの表現で、厚いhaloを持つと表現することが多いが、本来のhaloは肝細胞癌で見られる線維性被膜で出現する非常に薄いものをさしているのであるが、腫瘤辺縁の変性のないやや広い低エコー部も便宜上haloと呼ばれることがある。
胃癌、大腸癌などの消化管からの転移巣は高エコーで、腫瘤の形状は小さなものでは辺縁がほぼ平滑な球状を示すが、大きくなると不定形・分葉状・カリフラワー状・ヤツガシラ状と形容され、比較的特徴的なパターンを示す。石灰化もきたしやすく。明瞭な後方エコーの減衰を伴い、音響陰影を示すこともある。
他に、卵巣癌、骨肉腫からの転移で腫瘤内に石灰化を伴うことがあり、音響陰影を認める。腫瘤内出血でも後方エコーが減弱することがあり、出血しやすい悪性黒色腫で見られることがある。後方エコーが逆に増強するものに血管腫と肝細胞癌がある。後方エコー増強は腫瘤内を超音波ビームが透過しやすいことを示しており、STCによる増幅効果である。腫瘍内部の変性が容易に起こる転移巣では、超音波ビームの散乱が多く、腫瘤の巨大化とともに後方エコー増強をきたしにくい。
原発巣の形態を反映するものに乳癌、膵癌、悪性リンパ腫、扁平上皮癌、平滑筋肉腫、卵巣癌などがある。
乳癌、膵癌では原発巣は低エコーのものが多く、肝転移巣も腫瘤径が1㎝以下であれば低エコーであることが多い。
悪性リンパ腫も原発巣を反映して低エコー腫瘤形成することが多く、既存の脈管を偏位圧排しない所見は特徴的である。
扁平上皮癌、平滑筋肉腫は中心部に液化壊死をきたしやすい。扁平上皮癌である肺癌、食道癌に限らず、胃癌、大腸癌、平滑筋肉腫以外の肉腫でも腫瘤中心部無エコー域が認められることも多い。
卵巣癌は転移巣も同様に充実成分と嚢胞成分を含む混合エコーを示す。
個数は、経門脈性の転移をきたす胃癌、大腸癌では門脈右枝の流れが左枝に比べ速いため、肝右葉に単発の転移巣を示すこともあるが、一般的には、他の転移も含め、多発性で、比較的大きさが揃っており、肝辺縁に位置することが特徴的である。多数の腫瘤が肝内に存在すると、一見、肝実質が粗くなったように見えるcluster signを示すようになる。肝辺縁に存在する癌臍を作り、凹みを示す形態は転移に特徴的である。ただし、末梢型の肝内胆管癌も癌臍を形成することがある。血管腫は肝辺縁より膨隆するhump signを示すが、転移巣を大きくなればhump signを示すことも多い。
転移性肝癌のエコーパターン
- bull’s eye sign
- 比較的厚いhaloを伴う腫瘤は転移性肝癌に多く見られる。これをbull’s eye signと呼ぶ。
- cluster sign
- 転移性腫瘤が多数集簇して、腫瘤様に見えず、肝実質エコーが粗くなったように見えることをcluster signと呼ぶ。
- 中心部無エコー
- 腫瘤の内部に不整形の低~無エコー域が存在する場合は、中心壊死であり、扁平上皮癌、平滑筋肉腫など変性をきたしやすい腫瘍の肝転移が考えられる。
- エコー所見
- bull’s eye sign
- cluster sign
- 多発、類似サイズの結節を認めることが多い
- 大腸癌・胃癌・卵巣癌で粘液産生性のものは石灰化を伴うことが多い
- 悪性リンパ腫の肝浸潤では境界不明瞭な低エコーを呈する
- 肝表面の結節では、unbilication(癌臍)みられることがある
- 小さな低エコー結節が嚢胞様にみえることがある
- エコー所見(カラードプラ)
- 血流は少ない
- 既存血管が腫瘍により圧排された像認められる
- 腫瘍内に既存血管の残存することが多い
- 癌の増殖部である辺縁低エコー帯部に血流信号を認めることがある
- 中心部は壊死のため、血流信号はあまり認めない
- 原発巣によっては血流が多いことがある
検査をしていて思うこと
検査が初めての患者さんでHCCを見つけたことはないですが、CTなど他の検査で疑われて来た患者さんは何度か経験しました。まずは見つけるとこから、そして形状や内部エコー、周囲との関係などを観察、見るところが多すぎて最初は全然でした。先輩にチェックしてもらい、見るべきポイントを学んでいきました。難しいのは見るべきポイントが分かっていても、患者さんごとに見え方が違うのでこれはどうなんだろうと悩みます。こればっかりは経験値積んで、症例を重ねるしかないのかなと思います。
肝転移ないですか?の検査は胃癌や大腸癌などの術前検査で検査することがよくあります。原発巣によって見え方が変わったりするため、血管腫などの良性の疾患と鑑別が難しいなと感じます。
腹部超音波テキスト<上・下腹部>・腹部超音波ポケットマニュアルを主に参考にして勉強して作成しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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