抗TSH受容体抗体(TRAb)、甲状腺刺激抗体(TSAb)
健常者では、甲状腺細胞膜上に存在するTSH受容体にTSHが結合することによって甲状腺が刺激を受け、甲状腺ホルモンが産生される。バセドウ病ではTSH受容体に対する抗TSH受容体抗体(TSH receptor antibody:TRAb)が産生され、その抗体がTSHの代わりにTSH受容体に結合することで過剰に甲状腺ホルモンが産生される。
TRAb、TSAbのどちらを測定すべき
TRAbとは、一般にTBII(TSH binding inhibitory immunoglobulin)のことを指している。TBIIとはTSH受容体と標識TSHとの結合を患者血清がどれくらい阻害するかをみている。(結合阻害率:以前は%表示されていたが、現在はIU/Lで表示)
つまり、患者血清中にTSH受容体に結合する物質(抗TSH受容体抗体)がどれくらいあるか表している。
- TBII=TRAb≠TSAb
- TRAbはTSH受容体に結合する物質を測定
- TSAb:甲状腺刺激抗体
- TSBAb:甲状腺刺激阻害抗体
→TRAb高値なのに甲状腺機能低下症の症例も存在する
- TRAb=TSAb+TSBAb+刺激も阻害もしない抗体
抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)
主に橋本病の患者にみられる甲状腺自己抗体である。以前はサイロイドテスト、マイクロゾームテストという凝集法が用いられていたが、現在は電気化学発光免疫測定法(ECLIA法)などの免疫測定法が用いられている。検査法によって正常範囲が異なるので注意が必要。
橋本病の組織病変の有無と抗体陽性の有無はよく相関する。血清TgAbかTPOAbが陽性であれば、橋本病の組織病変があると考える。
サイログロブリン(Tg)
Tgは甲状腺だけに存在するタンパクである。したがって、最も診断価値が高いのは甲状腺癌で甲状腺を全摘している患者(かつ放射性ヨード内用療法にて残存甲状腺のアブレーション後)においての測定である。甲状腺がないのに血中Tgが高いということは、どこかに分化型の甲状腺癌の再発がみられるということになるためである。
極論すれば分化型甲状腺癌の経過観察は血液検査だけで可能ということになる。ただし留意点がある。
- TgAbが存在するとTg測定系(ELISAサンドイッチ法)が影響を受けるため、Tgの値は低値になる。
- 低分化癌や未分化癌では、多くの場合Tgが低値である。
- 甲状腺が完全に廃絶されていることが必要。つまり甲状腺全摘術と放射性ヨード内用療法によるアブレーション(廃絶)が行われていることが条件となる。
- 頸部の小さなリンパ節転移では血中Tgが増加しないことが多いため、定期的な頸部超音波検査が必要である。
カルシトニン
血中カルシトニンは甲状腺髄様癌で特異的に上昇する。甲状腺超音波検査では良性と診断されてしまうことがあるため、髄様癌を疑った場合には有用な検査となる。
- カルシトニン測定が推奨されるとき
- 超音波検査や穿刺吸引細胞診で甲状腺髄様癌が疑われるとき
- 高CEA血症を呈するとき
- 副甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫を合併しているとき
- 甲状腺髄様癌の家族歴があるとき
まとめ
- 抗TSH受容体抗体(TRAb)、甲状腺刺激抗体(TSAb)・・・バセドウ病
- 抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)・・・橋本病
- サイログロブリン(Tg)・・・分化型甲状腺癌
- カルシトニン・・・甲状腺髄様癌
甲状腺疾患の診断と治療を主に参考にして勉強して作成しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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