亜急性甲状腺炎

甲状腺

亜急性甲状腺炎(subacute thyroiditis)

甲状腺に何らかの原因で炎症が発生し、そのため甲状腺組織の破壊が起こり、血中への甲状腺ホルモンが一過性に漏出し甲状腺中毒症を示す病態である。病因としては流行性耳下腺炎、インフルエンザ、Coxsackieウイルス、アデノウイルス、EBウイルスなどの上気道感染が先行する場合が多く、ウイルス感染が原因とされている。ヒト白血球抗原(human leukocyteantigen : HLA)-Bw35との関連が報告され、遺伝的素因の関与も示唆されている。発症年齢は30~60歳に多く、男女比は1:10と女性に多い。

主要症状としては、発熱、片側性の前頚部の疼痛とともに、動悸、体重減少、発汗過多などの甲状腺中毒症を呈する。経過途中でクリーピング現象と呼ばれるように、発症初期は一側葉に限局した炎症、疼痛が経過とともに対側葉にも出現してくることがある。初期の1~2ヵ月間はこの中毒症状を呈するが、その後徐々に甲状腺ホルモンは低下していき、一過性に甲状腺機能低下症が起こった後に正常化する。

一般検査所見としては、CRP陽性、赤沈亢進、白血球増加、肝機能(AST,ALT)の軽度増加がみられる。甲状腺機能異常としては、FT3、FT4の高値、TSH測定感度以下が認められる。通常、TRAbは陰性である。放射性ヨウ素の甲状腺っへの取り込みは著明に抑制されている。

超音波診断

超音波画像上、圧痛、硬結部位に一致して、低エコーまたは無エコー域がまだら状、地図状にみられる。低エコー域の境界は不明瞭で、内部エコーは不均質である。経過とともにまだら状の低エコー域が融合してくる。また圧痛を伴う低エコー域が対側葉に出現することがある(クリーピング現象)。さらに臨床症状の改善後もこの低エコー域は残存することが多く炎症が完治していない場合がある。また頚部リンパ節の腫大を認める。

ドプラ法では中毒症状の時期には低エコー域内に血流はほとんどみられず、バセドウ病との鑑別診断に有用である。逆に修復期にはTSHの上昇に伴い一過性に血流増加を示す。

穿刺吸引細胞診(FNAC)や病理組織像では、肉芽腫性病変や大型の多核巨細胞の出現が特徴的である。

亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン

a)臨床所見

  1. 有痛性甲状腺腫

b)検査所見

  1. CRPまたは赤沈高値
  2. 遊離T4高値、TSH低値(0.1μU/ml以下)
  3. 甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域
  • 1)亜急性甲状腺炎
    • a)およびb)の全てを有するもの
  • 2)亜急性甲状腺炎の疑い
    • a)とb)の1および2
  • 除外規定
    • 橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌

【付記】

  1. 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下になる。
  2. 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀でない。
  3. 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
  4. 抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると未治療時から陽性になることもある。
  5. 細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
  6. 急性期は放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。

甲状腺超音波診断ガイドブックを主に参考にして勉強して作成しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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