無痛性甲状腺炎

甲状腺

無痛性甲状腺炎 painless thyroiditis

自己免疫異常が急に増強し、甲状腺濾胞細胞の破壊が亜急性に起こり、その結果甲状腺ホルモンが血中に漏出して起きる甲状腺中毒症である。慢性甲状腺炎(橋本病)を背景とすることが多い。

本症の頻度はバセドウ病に次いで多く甲状腺中毒症の約10~15%を占める。分娩後やステロイドの内服中止、Cushing症候群の述語に起こる場合や、アミオダロンやインターフェロンなどによる薬剤性甲状腺機能障害の形で起こる場合もある。

臨床上、甲状腺組織の破壊による甲状腺中毒症は一過性であり、引き続いて甲状腺機能低下症が起こるが、この低下症も内因性TSHの上昇によって短期間に回復することが多く、永続性の甲状腺機能低下症の発症は5%以下である、全経過は通常3か月以内である。

主要症状である甲状腺中毒症は亜急性甲状腺炎と同様であるが、軽度の場合が多い。中毒症状の後、一過性機能低下症を経て回復という経過を呈する点では亜急性甲状腺炎とよく似ているが、病名のごとく痛みや炎症反応を伴わないのが相違点である。

内分泌検査ではFT3、FT4高値、TSH測定感度以下、TRAbは陰性、放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みは著明に抑制されている。ほとんどの症例で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)や抗サイログロブリン抗体(TgAb)が陽性であり、関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなどの全身性自己免疫疾患に合併することもある。まれにバセドウ病の寛解中や治療中に自然発生することもあり、また一過性にTRAbは弱陽性になることもあるため、バセドウ病との鑑別が困難な場合もある。

超音波診断

  • 甲状腺の大きさは正常から軽度のびまん性腫大が認められる。
  • 橋本病を背景にしていることが多いため、超音波像も内部エコーレベル低下、内部エコーの不均質がみられる。
  • 炎症部位に一致してあらたな低エコー域を認めることが多い。
  • ドプラ法ではこの部位に血流がほとんど認められず、未治療バセドウ病との鑑別診断に有用である。

無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン

a)臨床所見

  1. 甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症
  2. 甲状腺中毒症の自然改善(通常約3ヶ月以内)

b)検査所見

  1. 遊離T4高値(さらに遊離T3高値)
  2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
  3. 抗TSH受容体抗体陰性
  4. 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率低値

無痛性甲状腺炎

  • a)およびb)の全てを有するもの

無痛性甲状腺炎の疑い

  • a)の全てとb)の1~3を有するもの

除外規定

  • 甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。

【付記】

  1. 慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中発症するものである。
  2. 出産後数ヶ月でしばしば発症する。
  3. 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
  4. 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下になる。
  5. 急性期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることがある。
  6. 抗TSH受容体抗体陽性例が稀にある。

甲状腺超音波診断ガイドブックを主に参考にして勉強して作成しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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